介護事業者が特定技能外国人を正しく受け入れるには

特定技能制度では、12の産業分野で一定の技能等を有する即戦力の外国人材を採用することが可能です。介護分野もこの12の産業分野に含まれており、特定技能制度の活用が拡大しているといえます。

他方で、特定技能制度は2019年にできた比較的新しい制度であり、受入れのノウハウも各介護事業者がトライアンドエラーで進めている最中だと思います。

この記事では、介護分野の特定技能制度において法令を遵守し、正しく受け入れるための注意点を中心にご説明したいと思います。


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特定技能制度の仕組み

直接採用する場合

特定技能制度の仕組み図

特定技能制度は、団体監理型技能実習と異なり、職業紹介行為を行う第三者がいない場合に、利用が必須となる機関(例:監理団体)はなく、受入企業である特定技能所属機関が特定技能外国人との間で、直接、特定技能雇用契約という入管法で定められた特別の雇用契約を締結して採用することが可能です。

受入企業である特定技能所属機関が注意しなければならない点としては、①特定技能雇用契約に関する基準と②一号特定技能外国人支援に関する基準の、大きく区分して2つの基準に適合しないと、特定技能外国人を受け入れることができない制度となっている点です

①特定技能雇用契約に関する基準について

特定技能雇用契約に関する基準は、さらに(i)特定技能雇用契約の内容に関する基準と(ii)特定技能雇用契約の当事者である特定技能所属機関が適切に特定技能雇用契約を履行するために満たすべき基準とに区別されます。

(i)特定技能雇用契約の内容に関する基準としては、例えば、「外国人の所定労働時間が、特定技能所属機関に雇用される通常の労働者の所定労働時間と同等であること。」や「外国人に対する報酬の額が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること。」等、日本人と外国人との間で差別となるような契約内容になっていないか等が基準として設けられています。

(ii)特定技能所属機関に関する基準としては、例えば、「労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守していること。」といった法令遵守に関するものや、直近1年の間に非自発的離職者を発生させていないか、一定の刑罰に処せられる等の欠格事由に該当していないか等が基準として設けられています。

特に(ii)特定技能所属機関に関する基準については、該当すると一定期間特定技能外国人を採用できなくなってしまう基準があります。その中でも、定年、自己都合、重責解雇、正当な理由のある雇止め以外で特定技能外国人と同じ仕事を行う方(日本人を含みます。)を離職させた場合には、現在雇用している特定技能外国人も含めて1年間特定技能外国人の雇用ができなくなる、いわゆる非自発的離職者の発生については、労働法有効な解雇であっても、非自発的離職者の発生に該当することがあるため、意図せず非自発的離職者を発生させてしまうこともあり、とても注意が必要な基準だといえます。

②一号特定技能外国人支援に関する基準について

一号特定技能外国人支援に関する基準についても(i)一号特定技能外国人支援計画そのものに関する基準と、(ii)一号特定技能外国人支援計画を適切に実施するために特定技能所属機関の体制等に関する基準があります。

(i)一号特定技能外国人支援計画そのものに関する基準としては、一定の日常生活及び社会生活上の支援を行うことが内容となっていることや一号特定技能外国人支援計画や一号特定技能外国人支援計画について外国人が十分に理解することができる言語により作成し、当該外国人にその写しを交付すること等が基準となっています。

この基準で定められている行うべき支援の項目は、次の10項目となります。

支援の10項目

※オレンジの破線で囲われた支援項目は、外国人が十分に理解することができる言語によって行うことが求められます。

(ii)一号特定技能外国人支援計画を適切に実施するために特定技能所属機関の体制等に関する基準については、「一号特定技能外国人支援計画に基づく職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援を当該外国人が十分に理解することができる言語によって行うことができる体制を有している」ことや一定の外国人の受入れ経験があること等が基準となっています。

この(ii)の基準は、登録支援機関に支援の全部を委託した場合には、実際は特定技能所属機関がその基準を満たしていなくても、満たしているものとして扱われます。この点が登録支援機関を活用するメリットとなります。

 
 
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第三者を介して人材を採用する場合

第三者を介して人材を採用する場合の説明図

上記で見た直接採用をする場合ではなく、第三者を介して紹介を受けて特定技能外国人を採用する場合、職業紹介行為を行う法人・個人が関与することになります。そして、職業紹介を行うことは、法人であっても、個人であっても原則として有料・無料職業紹介の許可がなくてはできませんので、職業紹介事業者を利用して採用することになります。一般的には、登録支援機関が職業紹介の許可を有しており、登録支援機関兼職業紹介事業者であることが多いと思います。

この職業紹介事業者が介在する場合、人材(求職者)及び企業(求人者)の双方が日本国内にいる場合は、原則として日本の職業紹介の許可を持った事業者のみで紹介を行うことが可能です。

他方で、人材が海外にいる場合等、国境を越えて採用する場合には、日本の職安法の規制により、送出国で許可をもった事業者と提携し、当該提携について日本の労働局に届出を行っている職業紹介事業者から受け入れることになります。
この点、送出機関を使わなければならないという点は、よく送出国の法律で定められた内容であると誤解されるのですが、①日本の職安法に基づく規制と②送出国の法令に基づく規制とその双方で定められています。

送出機関を介在させなければならないかの判断をチャートにすると、次のとおりとなります。

送出機関を介在させなければならないかの判断をチャート

職業紹介行為が介在し職業紹介会社が上記の送出機関が必要な場合、送出機関と契約を締結し、日本の労働局に届出を行います。この届出がなされているかは、厚生労働省が運営する人材サービス総合サイトで調べることが可能です
(URL:https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/JinzaiWeb/GICB101010.do?action=initDisp&screenId=GICB10101)。

当該事業者と取引して良いか検討する際に、参考にすると良いでしょう。

受け入れた後の注意点

特定技能外国人を受け入れた後は、一号特定技能外国人支援計画及び特定技能雇用契約をそれぞれ適切に実施、履行することが必要です。

それとあわせて、四半期に一度の定期の届出及び届出事項が発生した際の随時の届出についても行う必要があります。不安がある場合は、経験がある登録支援機関の支援を受けながら進めるのが良いでしょう。

介護分野の特徴

上記の特定技能制度の枠組みで、介護分野の特定技能外国人についても受け入れることになります。介護分野については、介護分野独自に定められた要件で、一部注意を要するものがあります。

  1. 人数枠
    特定技能制度は、産業分野ごとの人数制限枠は設けられていますが、使用者である法人や事業所単位の一般的な人数枠の設定はありません。ですが、介護分野については、「特定技能所属機関に関する基準」として特定技能外国人が働く事業場において、特定技能外国人の人数が「常勤の介護職員の総数を超えないこと」が求められます。この「常勤の介護職員」については、日本人の他に①介護福祉士国家試験に合格したEPA介護福祉士、②在留資格「介護」により在留する者、③永住者や日本人の配偶者など、身分・地位に基づく在留資格により在留する者が含まれます。 特定技能外国人を雇用する場合、これらの日本人及び①から③の外国人を含めた常勤の介護職員の総数を超えることができない点は注意を要します。
  2. 業務の内容及び就労場所
    介護分野の特定技能では業務内容は「身体介護等(利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつの介助等)のほか、これに付随する支援業務(レクリエーションの実施、機能訓練の補助等)」とされます。ここで注意が必要なのは、訪問介護等の訪問系サービスは業務の対象から除かれている点です。そのため、サービス付高齢者住宅等、訪問系サービスを行う施設では、特定技能1号の在留資格を有する人材に働いてもらうことはできないことになります。 働くことができる施設については、介護福祉士国家試験の受験資格要件において「介護」の実務経験として認められる施設とされます。分野参考様式第1-2号「介護分野における業務を行わせる事業所の概要書」に対象となる施設の一覧が記載されているため、受入れ可能な施設か否かについて検討する参考にすると良いように思います。
  3. その他在留資格との対応
    介護分野は、特定技能制度の他に技能実習制度や特定活動(EPA)等、働くことができる在留資格が複数存在します。それぞれの制度は制度目的も異なりますし、それと連動して教育面の支援等の外部からの支援も異なります。 他方で、同じ業務を行っている場合、そこで働く人は同じ仕事で貢献をしていれば、同じ対価を得たいと思うと思います。そのため、異なる制度間において、待遇をどのようにフェアにするかというのも、介護分野では他の分野と異なって検討がより必要な論点だといえます。

まとめ

以上のとおり、特定技能制度に関する論点、介護分野特有の論点について概説しました。一見、検討することが多くて難しいように感じられるかもしれませんが、一つ一つ経験を積み受入れのノウハウを組織の力として蓄えていくのが、重要になっていくと思います。

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