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介護分野の特定技能外国人を受け入れる際に生じ得る法令違反の類型としては、次のものがあります。
リスクの類型 | 関係条文 | 罰則・効果等 |
---|---|---|
①-1在留資格該当性がない活動 (不法就労、受入れの停止) |
入管法別表第1の2「特定技能」の下欄 入管法19条1項、入管法24条の第3の4号 入管法73条の2 |
3年以下の懲役若しく300万円以下の罰金、又はこれの併科等 受入れの停止 |
①-2在留資格該当性がなくなる規定不適合 (不法就労、受入れの停止) |
入管法2条の5第1項から4項 特定技能基準省令1条から4項 |
3年以下の懲役若しく300万円以下の罰金、又はこれの併科等 受入れの停止 |
②基準不適合 (①に該当するもの以外の基準不適合) |
上陸許可基準省令「特定技能」の下欄 | 在留資格認定証明書の不交付、在留資格変更許可・更新許可の不許可 |
③届出義務違反 | 入管法19条の18 入管法71条の4第1号 入管法77条の2 |
30万円以下の罰金 10万円以下の過料 |
それぞれの類型ごとに、どういった場合が該当するのか、そして、法令違反を回避するためにはどういった対応をする必要があるのかを見て行きたいと思います。
類型①-1及び類型①-2は、入管法別表第1の2の表「特定技能」の下欄にかかれている在留資格の活動に合致しない活動を行ってしまう可能性がある類型として共通点があります。
そのうち、類型①-2は、特定基準省令として定めている基準に適合しないものを特に取り出したものです。
この類型を理解するためには、まず、在留資格に関する審査がどのように行われるかという点から、ご説明したいと思います。
それでは、在留資格はどのように審査されるのでしょうか。在留資格の許可・不許可の審査は、主に「在留資格該当性」と「基準適合性」の観点から行われます。在留資格の審査については、上陸許可についての入国審査官の審査について定めた入管法7条が定めていて、「在留資格該当性」と「基準適合」についても入管法7条により導き出されるものです。
実際に入管法7条1項2号の条文をご覧いただいた方がわかりやすいと思います。
①申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく、別表第一の下欄に掲げる活動(略)又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位(略)を有する者としての活動のいずれかに該当し、かつ、②別表第一の二の表及び四の表の下欄に掲げる活動を行おうとする者については我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定める基準に適合すること(略)。
上記の①の日本で行おうとする活動が入管法別表第1または2の表で定められた活動に該当するという部分が「在留資格該当性」の部分です。
また、②法務省令で定める基準に適合するという点が「基準適合性」に関する部分です。
在留資格の審査は、主として、この①「在留資格該当性」及び②「基準適合性」の観点から審査されることになります。
なお、②「基準適合性」で出てくる基準としてよく出てくる基準が「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令」で、上陸許可基準省令と呼ばれます。
「上陸許可基準省令」と聞くと、上陸、すなわち新規に日本に入国する際にしか適用されないとも思えます。ですが、日本に上陸した後に出てくる手続である「在留資格変更許可」及び「在留期間更新許可」においても基準適合性は審査されます。これは、「在留資格変更許可」においても、「在留期間更新許可」においても「相当の理由があるとき」にそれぞれ変更・更新が許可されることになりますが(入管法20条3項、21条3項)、この相当性の判断の中で基準適合性が読み込まれる形で審査されるためです。
そのため、一見上陸のときにのみ適用されそうな上陸許可基準省令への適合性について、在留資格変更許可及び在留期間更新許可の際にも基準に適合していることが求められることになります。
続いて、「特定技能1号」の在留資格該当性について見て行きたいと思います。
「特定技能1号」、在留資格の活動として定められている活動は、次のとおりです(入管法別表1の2「特定技能」の下欄)。
①法務大臣が指定する本邦の公私の機関との雇用に関する契約(②第2条の5第1項から第4項までの規定に適合するものに限る。次号において同じ。)に基づいて行う特定産業分野(人材を確保することが困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野として法務省令で定めるものをいう。同号において同じ。)であつて法務大臣が指定するものに属する法務省令で定める相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動
入管法が定める活動のうち、特に違反を犯しやすい点について見て行きたいと思います。
「特定技能1号」の在留資格は、法務大臣が「指定する本邦の公私の機関」との雇用に関する契約に基づく活動である必要があります。
「特定技能1号」の在留資格が決定される際、雇用契約の相手方となる法人・個人が指定書により決定され、指定書が交付されます(入管法施行規則7条2項、20条7項)。
そして、在留資格に該当する活動は「法務大臣が指定する本邦の公私の機関との雇用に関する契約」に基づく活動です。言い換えれば、法務大臣が指定した法人以外の法人との雇用契約や、指定された法人であったとしても「雇用に関する契約」ではない契約(例:業務委託契約、請負契約)であれば、在留資格の活動として定められた活動以外の活動となってしまいます。
この意味するところは、法務大臣が指定した法人以外の法人との雇用契約等で特定技能外国人が働いてしまうと、入管法別表1の2「特定技能」の下欄に掲げる活動に該当しない結果、「在留資格に応じこれらの表の下欄に掲げる活動に属しない」活動にあたってしまい、入管法19条1項1号に違反してしまいます。
そして、入管法19条1項1号に違反した活動は、不法就労活動(入管法24条第3の4号)に該当してしまい、結果として、不法就労助長罪に該当し得る結果となってしまうわけです。
この法違反がどのような場合に生じ得るかといえば、転職のときに起こりやすいといえます。転職の際は働く法人を変更するわけですから、「法務大臣が指定する本邦の公私の機関」の変更を行います。この指定された機関を変更する手続は、在留資格変更許可申請手続となります(入管法20条1項)。つまり、働く法人を変更する場合は、「特定技能1号」から「特定技能1号」への変更を必要とするわけです。
そして、新しい勤務先が指定された指定書が交付される前に、新しい勤務先で働き始めてしまえば、それは、「在留資格に応じこれらの表の下欄に掲げる活動に属しない」活動となり、不法就労活動に該当してしまいます。
働けない期間が生じてしまうのは、外国人にとっても施設にとっても望ましいことではないと思いますが、それでも不法就労をしてしまうと、外国人も施設も、日本にいられない・特定技能外国人を雇えないという大きな問題を生じてしまうことになります。
「特定技能1号」の在留資格では、前項でご覧いただいたとおり、「雇用に関する契約」に基づく活動であることが必要です。そして、さらに、「雇用に関する契約」は一定の規定に適合しているしている必要があります。それが「第2条の5第1項から第4項までの規定に適合するものに限る」の部分です。
具体的には、次のとおり、「雇用に関する契約」の内容に関するものと、「雇用に関する契約」の当事者に関するものがあります。
雇用に関する契約の内容等 (入管法2条の5第1項、2項) |
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雇用に関する契約の相手方となる本邦の公私の機関 (入管法2条の5第3項、4項) |
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これらのⅰからⅳの項目については、さらに具体的な特定技能基準省令という省令により細かく基準が定められています。そして注意が必要なのは、この特定技能基準省令に適合しなくなり、「第2条の5第1項から第4項までの規定に適合」しなくなった場合、それは、「特定技能1号」の在留資格で行うことができる活動である「雇用に関する契約」に該当しなくなることを意味します。すなわち、規定に適合しない「雇用に関する契約」は、一見、特定技能1号で行うことができる活動に見えますが、そうではなく、不法就労となってしまう活動に該当するわけです。
では、具体的に、「雇用に関する契約」の内容に関するものと、「雇用に関する契約」の当事者に関するものとして、どういった基準に適合する必要があるかを見て行きましょう。
雇用に関する契約の内容等として特定技能基準省令1条に定められている基準は、次のとおりです。
出入国管理及び難民認定法(略)第2条の5第1項の法務省令で定める基準のうち雇用関係に関する事項に係るものは、労働基準法(略)その他の労働に関する法令の規定に適合していることのほか、次のとおりとする。
法第2条の5第1項の法務省令で定める基準のうち外国人の適正な在留に資するために必要な事項に係るものは、次のとおりとする。
これらの項目をご覧戴ければおわかりのとおり、これらの基準は、「雇用に関する契約」の内容に関するものです。契約の内容として、上記の各項目に適合している必要があります。
雇用に関する契約の相手方となる本邦の公私の機関に関するものとして特定技能基準省令1条に定められている基準は、次のとおりです。なお、もとの特定技能基準省令が長文であるため、項目のみを記載します。
この項目のいずれかを欠いた場合は、特定技能外国人の受入れ機関として基準を満たさない、すなわち、受入れも現在いる特定技能外国人の雇用継続もできなくなってしまいます。
そして、特に重要なのが、「②一定の場合を除き、外国人が就労予定の業務について離職者を出していないこと」及び「④欠格事由に該当しないこと」です。
このように、「特定技能1号」の在留資格では、活動そのものの内容や、その詳細として契約内容、契約の当事者についても定めがあり、これらを全て満たしてはじめて適法な活動になるという制度となってします。
そのため、特定技能基準省令も含めた理解のもと、制度を運用する必要があるといえます。
「特定技能1号」について定められている上陸許可基準省令の内容は、次のとおりです。
イ十八歳以上であること。ロ健康状態が良好であること。ハ従事しようとする業務に必要な相当程度の知識又は経験を必要とする技能を有していることが試験その他の評価方法により証明されていること。ニ本邦での生活に必要な日本語能力及び従事しようとする業務に必要な日本語能力を有していることが試験その他の評価方法により証明されていること。ホ退去強制令書の円滑な執行に協力するとして法務大臣が告示で定める外国政府又は地域(略)の権限ある機関の発行した旅券を所持していること。ヘ特定技能(略)の在留資格をもって本邦に在留したことがある者にあっては、当該在留資格をもって在留した期間が通算して五年に達していないこと。
いずれも基準に適合する必要がある項目ですが、④については若干補足の説明が必要だと思います。
この④の「当該国又は地域において遵守すべき手続が定められている場合」については、外国人の出身国ごとに異なります。例えば、ベトナムやカンボジアでは、これに対応する手続があるため、在留諸申請の際に推薦者表等、一定の書類の提出が必要となります。
ですが、④に該当しない場合であっても、当該国の出国許可手続として一定の書類・手続が必要な国(例:フィリピン)や、査証を取得する際に一定の書類・手続が必要な国(例:インドネシア)もあります。
そのため、それぞれ出身国・地域ごとにどういった手続が必要かを把握して在留諸申請に臨む必要があるといえます。
関連記事:介護事業所が特定技能の受入れ機関になるための基準・要件と流れを解説
特定技能制度では、次のとおり、定期及び随時の届出が必要です。
登録支援機関に全部の実施を委託した以外の場合 | 登録支援機関に全部の実施を委託した場合 |
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【特定技能所属機関が実施】
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【特定技能所属機関が実施】
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【登録支援機関が実施】
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これらの届出を怠ってしまうと、届出の項目によって30万円以下の罰金、10万円以下の過料が科されてしまいます。
特に、随時の届出は、何が届出事由かを把握しておかないと、特定技能雇用契約の変更をしたけど届出していない等、届出事項が発生したときに届出が必要と気がつかず、放置してしまう可能性もあります。
何が届出事項かについて理解した上で、これまで入管に提出していた書類の内容が変化した場合には何か届出が必要なのではないか、というアンテナを張ってオペレーションを行うのが良いといえます。
関連記事:特定技能所属機関とは?受入れ機関になるための要件や申請書類について
これまで見たとおり、特定技能制度は、法的に非常に精緻に作られている制度であり、体系的な理解をした上ででないと、うっかり法令違反が生じやすいといえます。
受入れの際には、経験の豊かな登録支援機関の支援を受けるとともに、日常的に相談ができる弁護士・行政書士を確保しておくことが重要だといえます。